刀の鞘にエアブラシで龍と鯉を描いてみた【木にもペイントできるのか?】

塗装の知識と実践
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 皆さんこんにちは。FLAG-UP代表の中島照文です。

 今回は刀の鞘をペイントしたので、その辺を詳しく解説していこうかと思います。

刀の鞘とはどういう事?って思うかもしれません。僕も依頼があった時にはびっくりしましたが、とても良い経験になりましたし、非常に楽しかったです。

 刀の鞘は木製です。木にペイントって出来るの?と思う方も多いかと思いますが、いけます!大丈夫です!とはいえ、通常想定される鉄やプラスティックとは、やはり違う点もあるので気にすべき点や作業ポイントなども上げていこうと思います。

 今回はそこにエアブラシでデザインも入れたのでどういう風に出来上がっていくのかを楽しんで読み進めていってもらえればと思います。

 それではいきましょう!

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下地作業

 はい、こちらが作業前の状態です。うるしか何かを用いて黒く塗られています。このまま上からペイントしていくのは、どういう反応が起こるか不明で中々不安なので、全てサンディング剥離していきます。

 通常こういった場合はダブルアクションなどのエアツールを使ってガンガン削っていくのですが、今回は相手が木。柔らかいので削り過ぎてしまい形が崩れる恐れがあります。容易にパテ修正出来るものでもないので(普段使っているパテが木に対して確実に使用出来るか不明な為)軽くダブルアクションを当てた後は、当て板で塗膜を落としていきます。多少時間は掛かりますがリスクを回避する為には必要な事かと思います。

 この塗装は、普段我々が使うクリアコートやベースコートとは違い、若干粘るというんですかね?思いの外削れない。いつも通りだったらもうちょっと早く落とせるかと思ったのですが、目詰まりし易く案外削れないんですよね。

 120くらいの番手から始め、素地を痛めないように進めていきます。最終番手は320番です。木は柔らかいので、うっかり深い目を入れてしまうと最後まで引きずる事も考えられるので、多少時間はかかっても早めに番手を切り換えて素地を痛めないようにします。

 ちなみに刀の鞘に使われている木は多くがホオノキという種類になります。非常に軽くその割に硬くて丈夫。油分が少ないので、刀を錆びさせないという特徴があります。

サーフェーサー塗装

 全体の塗膜をしっかり落とした後、サーフェーサーを塗装します。木を塗装するにあたりこのサーフェーサー塗装が肝となります。木の表面は一見綺麗でツルツルしてそうですが、細かく見ると無数の小さな穴が空いていたり、研いだ時にケバだっていたりします。これらをカバーし表面を整えるのがサーフェーサーです。

 更に、鉄やプラスティックと違い、木は色やクリアコートを吸ってしまいツヤ引けやその他不具合を起こす可能性があります。なので、下地にあたるサーフェーサーでしっかりコートして表面を平滑にする事で、その後も美しく仕上げる事が出来ます。(仕上がり時は鉄やプラスティックなどにペイントしたものと、ほぼ差異なく仕上がりますが、長い目で見ていくと徐々に艶が引けたりする事も考えられます)

 今回は通常のサーフェーサーのコート数で収まりましたが、表面がもっと荒かったら、一度乾燥させて研いで、再度サーフェーサー塗装という手順が必要だったかもしれません。

 塗装後はしっかり乾燥させます。通常であればブース温度を60℃くらいまで上げて乾燥させるのですが、木の変形や鞘を貼り合わせているであろう糊が、どれくらいもつのか不明だったので、40℃程度で乾燥。また、太陽光に当てたりしながらゆっくり乾かしていきました。せっかく綺麗に下地しても割れたりしたら最悪ですからね。

 しっかり乾燥した後、サーフェーサーを研いで(1000番の耐水ペーパーとアシレックスを使用。フィニッシュは1500番のユニウール)ベースコートとなる黒の塗装に入っていきます。

デザインを描いていく!

 はい、黒が塗装されました。耐水ペーパーでブツ(クリアコート表面についたゴミ)を取り除き、全体を1500番のユニウールでアシ付けをします。その後、エアブロー、脱脂をしていよいよデザインを描いていきます。

 今回鞘に描かれるデザインは化け鯉と龍。化け鯉というのは鯉が滝を登って龍になるという逸話がありますが、その途中、鯉が龍に変わるその中間を化け鯉と言います。なので、鯉なんだけど龍っぽくツノが生えていたりします。

 この龍と鯉のデザインに本当に悩みました。始めは入れ墨のデザインなんかを参考にしてオーナー様と打ち合わせて、こんな感じでどう?とラフをご提案致しました。デザインを気に入って頂けたのでそれを元に描き進めていくのですが、途中からなんか違うなと。笑

 オーナーさんのキャラというか人柄に合っていないなと。強そうにし過ぎると怖い感じになっちゃうし、イラストっぽい感じも嫌だし。この辺は僕に任せて頂いていたのでいっぱい悩ませてもらいました。

 刀の独特の雰囲気も崩さずに派手過ぎず、オーナーさんの優しい感じを出しながらかっこよく仕上げるというのが僕なりのテーマでした。最終的にはうまくいったかなと思うのですが、途中、仕上げ手前までいって全部消してやり直すという判断を下しました。オーナーさんもびっくりしていましたが、どーしても納得がいかなかったので、ご説明して納得頂きました。ご迷惑おかけしました。ありがとうございました。

 鞘は横幅が短い為に描くスペースが非常に狭く、とにかく細かい作業になりました。ハンドピースの調子が悪いと直ぐにアラが出てくるのでその辺に神経を使います。希釈もなるべく薄くして、エア圧もなるべく下げます。そうする事で周りにミストが飛ぶのを抑えて描く事が出来ます。ただ、希釈率が高いとなかなか染まらないし、エア圧も下げると綺麗に霧状化されないこともあるのでその辺は調整が必要です。

 又、狭いスペースでも奥行き感は出せるので、なるべくそう見えるようなデザインにしたつもりです。

 描き方としては、オーナー様にご提案したラフを、そのままカット!大体のサイズを測った上で描いていたので、このまま使えました。その紙をそのままステンシルにして軽く白を吹いて位置だしは完了ですね。そこから細かく書き込んでいきます。

 基本的にいつもはフリーハンドで描いていくのですが、今回は鱗や角にをマスキングも使ってみました。

 マスキングの利点としてはエッジがしっかり出たハッキリとしたラインが簡単に描けること。難点としてはハッキリし過ぎて本物っぽくない感じが出る事かなと思います。遠目に見るとそんな違和感ないですが、近くで見ると感じると思います。

 人工物を描くとかであればマスキングも良いかと思いますが、生物や風景などでハッキリとしたラインというのはそんなに無いです。なので、自然と違和感を感じてしまうのかと思います。なので今回はマスキングしつつも、崩すところは崩しながら描いてみました。

 本音を言うともっと細かく描き込んで、気になる所を修正したい気持ちもあったのですが、それではいつまで経っても終わらないですからね。仕事に対するこだわりと納期の関係性の追求はずっと続くでしょう。

 表面は比較的暗めに仕上げ派手さを抑えました。なので、裏面には差し色的な意味合いで鮮やかな紅葉を描かせていただきました。3枚それぞれ色味を変えてちょっと遊んだ感じになりました。

 そして仕上げのクリアコートを吹いてフィニッシュ!最後にしっかり磨いて良い感じに仕上げる事が出来ました。

まとめ

 ペイントショップを開いてまさか刀の鞘を塗るとは思ってもみませんでした。ただ、こういったチャンスを頂けるのは本当にありがたい事ですね。今後は刀を愛する方々に営業をかけてみようかと思います。笑

 今回は本当に面白いお仕事でした。初めてのモノでも恐れずに全力でやらせて頂くというのは、どんな立場でもどんな仕事でも大切な事かもしれませんね。

 ここまで読んで頂きありがとうございました。

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