皆さんこんにちは。FLAG-UP代表の中島照文です。
前回に引き続きピストンについて詳しく話していきたいと思います。
それではいきましょう!
ピストンの特徴
ピストンの逃げ
ピストンの頭部の表面はインレットバルブ、エキゾーストバルブの逃げがあり干渉しないようにへこんでいます。一見するとどちらも同じような逃げなのですが、一般的にはインレットバルブの方が大きく作られているので、インレットバルブバルブの逃げの方が大きく作られています。
又、両バルブで組み付け角度も違うので、逃げの角度も違います。なので、組み付け方向を間違えるとバルブとピストンがぶつかる危険性が高いです。
仮に、その時ぶつからなかったとしてもカーボンやスラッジが溜まってくるとクリアランスが狭くなってくるので、いずれ衝突する事も考えられます。
ピストン頭部
又、ピストンを直接見た事がある人ならわかると思いますが、ピストンの頭部は鋳肌でざらざらしています。これは鋳造の際、金型で急激に冷やされるとこのようになります。これをチル層といいます。
ピストン頭部は高温高圧にさらされるとても過酷な環境なので、この硬いチル層が表面を保護してくれるのです。なので、綺麗にしたいからといってここを削ってピカピカにしたりしてはダメですよ。笑
ピストン頭部の縁は角が取られていて若干丸みを帯びていると思います。それは、ここにエッジがあるとヒートスポットになる可能性がありプレイグニッションなどの異常燃焼を起こす可能性が高くなるからです。すると、ピストンが異常な高温になってしまい、ピストンの破損に繋がる事も考えられますので、点検整備の際にはこの辺りにキズ等を付けてバリなどが立たないように注意が必要です。
表面処理
ピストンの表面は表面処理が施されていてスズメッキや二酸化モリブデンなどで処理されているものがあります。又、表面に細かな凹凸がありそこにオイルが残ってくれて油膜保持に役立っています。これがもし、ツルツルだと油膜が切れてしまい、ピストンの焼き付きに繋がるコトもあるでしょう。
凹凸の上にスズメッキが施されており、スズメッキは軟質金属なので、使用していくうちに表面が削られしっかりと馴染んでいくようになります。
モリブデンは摩擦係数を下げるために塗布されていて初期馴染みも良好でフリクション低減にもつながります。
形状
ピストンは綺麗な円形のように思われがちですが、細かくいうと楕円形です。これも金属が熱膨張することを計算しての設計です。熱を持ち膨張した時にきれいな円形になるような設計されているのです。
又、ピストンピンが入る穴まわりは凹んでいますよね。これはピストンの窓部といわれるところです。これは、内側にえぐれる事でピストンピンを短くコンパクトにする為です。それによりピストンの軽量化と高剛性を得る狙いが有ります。
更には、ピストン周りの質量を軽減する事で慣性ロスが減り出力の向上が見込めます。
トップランドとトップリング
一番上のピストンリングをトップリングと言い、その上面をトップランドと呼びます。トップランドはシリンダライナーとは直接触れずに他のセカンドランドや、サードランド辺りよりもクリアランスが大きく作られています。単純に考えると大きいクリアランスは機密性を悪くしてあまり良くないように思えます。しかし、このクリアランスが大切です。
あえて大きめに隙間を開ける事でそこから燃焼圧力をトップリング溝に導びき、燃焼圧力によってトップリングのシール際を高めているのです。もし、このクリアランスがないとピストンが上下する中でトップリングがオイルを掻き上げてしまい燃焼室に入ってしまいます。いわゆるオイル上がりですね。
しかし、逆にクリアランスが多過ぎるとリング溝に入った混合気が完全燃焼せずにそのまま大気に放出される恐れも出てきます。これはリング溝奥まで入った混合気には火炎が届かないことによって起きます。なのでリング溝に溜まったカーボンやスラッジを綺麗に取り除かないとこのピストンリングが正常に働いてくれなくなってしまうのです。
セカンドランドとセカンドリング
中間のピストンリングをセカンドリングと言い、その上部をセカンドランドと言います。セカンドランドはトップランドほどのクリアランスを持たないので、ブローバイガスを極力出さないように作られています。
セカンドリングの1番の役目はエンジンオイルを掻き落とすことにあります。セカンドリングはテーパー状になっているので、ピストンの上昇時はピストンとライナーの隙間に滑らかな油膜を作り、ピストン下降時にはオイルを掻き落とします。カーボンやスラッジは溜まりにくい部位ですが、分解整備の時はきれいにしてあげると良いでしょう。
サードランドとサードリング(オイルリング)
サードリングの上部をサードランド(オイルリング)と言います。
サードリング(オイルリング)の主な役割はオイル掻き落とす事とセカンドリングによって書き落とされたオイルをクランクケースに落とすための穴が空いている事です。サードリングにもモノによって、それぞれ違った数の穴が開いていて、機種ごとに違った値で設定されています。基本的にはサードリングにカーボンは溜まりません。もし、サードリングが汚れていたらトップ、セカンドリングになにか原因があるかもしれません。
ピストンピン
ピストンピンはピストンが受ける燃焼圧力を支えるところなので、非常に重要で強度が必要な部位です。なので、油膜が必ず必要になってくるので、給油のために非常に小さな穴が空いている事があります。整備の時はこの小穴とピストンが入るボス部は傷付けないよう注意が必要です。
又、二輪車は四輪車と違ってピストンピンの両端に溝が掘ってありクリップで止めてあります。四輪車の場合は圧入されているのですが、二輪車は高回転型のエンジンなので同じ構造にすると揺動角が大き過ぎて、油膜切れを起こす可能性が高くなってしまうのです。
なので、二輪車ではピストンピンは多少ゆとりがあるように設定されており、クリップでピンを止めているのです。
ピストンスカート部
ピストンリングの下側をスカート部といいます。スカート部はエンジンによって、それぞれ長さは違うものの、どれもなるべく長く作られています。これはピストンの首振り挙動を抑える為の設計です。
又、スカートの一番下(はしっこ)は鋭いエッジになっています。ココ、実はとても大切です。
4ストロークエンジンでは燃焼室にオイルを侵入させたくありません。その為にピストンリングでオイルを掻き落としているのですが、この下端部でも同じような働きをおこなっています。なので、ここにエッジをあえて作りオイル上がりを防いでいるのです。
なので、もし分解した場合にはピストン頭頂部を下に置いて保管しましょう。下側に置いて前述のエッジを傷つけたりするとオイル上がりの原因となることもあるでしょう。
これは4ストロークエンジンのピストンですが2ストロークエンジンのピストンは又違ってきます。
2ストロークエンジンのピストンは逆に面取りが行われていてエッジが無く作られています。これは、もともと給油か不安定な2ストロークエンジンにおいて、少しでも多くのオイルをシリンダー壁に残す為の形状なのです。
なので、2ストロークエンジンのピストンを分解した場合には、4ストロークピストンとは逆に頭頂部を上に来るように保管して下端部に傷を入れない配慮が必要になってきます。
これでピストンの解説を終えます。
正直、整備士を目指すとかでなければ、ここまで詳しくエンジン内部の事を知る必要はありません。
しかし、部品の形状や素材にはそれぞれ必ず意味があって、どれも無駄なく洗練されています。
そういったものを知るのは非常に面白く、魅力ある事だと思います。このサイトを読んで頂き『バイクの中身を知るのって面白い!』って思ってもらえれば幸いです。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました♪
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