皆さんこんにちは。FLAG-UP代表の中島照文です。
今回はエンジンの主要部品であるピストンについてお話していこうかと思います。
全体的な構造や基本的なところはこちらに記載してありますが、
今回はもう少し詳しく説明していけたらと思います。
それではいきましょう!
ピストン概要
まず簡単にピストンの概要です。
ピストンは、エンジンのシリンダー内に挿入されていて、シリンダーヘッドと合わせて燃焼室を形成しています。
スパークプラグの火花によって爆発が起きると、コンロッドを介してクランンクシャフトを回転させて、動力を得ています。
又、ピストンには3つの溝が掘られていて、それぞれにピストンリングが取り付けられています。上部2つの溝には、コンプレッションリングがはまっていてシリンダーの機密性を保ちます。一番下の溝にオイルリングがはまり、オイルを書き落とす事で燃焼室にオイルが上がってくることを防いでいます。
ピストンに求められる理想的な性能
そんなピストンですが、求められる理想的な性能というのがあります。それが、
①質量が軽くゼロに近い
②燃焼室の形状は完全な球形
③ピストンとシリンダーに適切な油膜を保つ事ができる
④ピストンとシリンダーのクリアランスは油膜以上にならない
⑤高温時でも低温時でもシリンダーとのクリアランスを一定に保てる
⑥高圧縮でもノッキングを起こしにくい放熱性があり、熱溜まりの箇所がない
⑦ノッキングが起きたとしてもスグには融解しない
⑧オイル上がりしない(燃焼室にオイルが上がってくる事)
⑨ピストンリングが滑らかに動き、ゆっくり回転すること。溝にカーボンがたまらないこと
⑩ピストンピンから受ける曲げと弾性変形がない
⑪長時間の使用でもピストンが変形しない
これらが理想的な4サイクルエンジンピストンに求められる性能です。とは言え、読んでいただければわかると思いますがこんな完璧なピストンというのは存在せず、あくまで理想形という事になります。なので、これらの理想を達成する為に日々開発が行われているということになります。
では、それぞれの項目についてもう少し細かく解説していきたいと思います。
①質量が軽くゼロに近い
ピストンを軽くする事によって、慣性抵抗を減らし出力損失を大きく下げる事が可能になります。更に質量が軽いとコンロッド大端部のベアリングの耐久性にも影響してきます。
ピストンが上下するときの力はとても強く、それを引っ張って止める力がベアリングには働きます。なのでピストンの質量が軽くなればベアリングにかかる力は弱まり、耐久性が向上します。
②燃焼室の形状は完全な球形
理想的な燃焼室の形状は完全な球形でその真ん中で燃焼がおきるのが理想的とされています。燃焼室にはさまざまな形状があってクサビ型や多球型などがあります。形はちがいますが、目的は燃焼効率や排ガス性能の向上、火炎の伝播速度を上げたりする為の形状となっています。
③ピストンとシリンダーに適切な油膜を保つ事ができる
シリンダーとピストンは触れ合って気密を保っているように思えますが、実はそんなことはなくエンジンオイルによって気密が保たれています。
金属同士が高速で擦れ合って動き続ければ当然高熱を帯びるのですぐに焼き付いてしまうでしょう。
なので、ピストンとシリンダーには常に適切な油膜が保たれてなければいけません。その為にピストン側面には細かな凹凸が設けられていて、オイルが滑り落ちずに保持されるようになっています。
④ピストンとシリンダーのクリアランスが油膜以上にならない
ピストンとシリンダーのクリアランス(隙間が)が油膜以上になると気密性が悪くなり、更にピストンスラップという異音の原因にもなります。この音は高回転時にはあまり気にならないのですが低回転だとトコトコ気になる音を出します。なので、クリアランスが油膜以上にならないような設計が必要です。
⑤高温時でも低温時でもシリンダーとのクリアランスを一定に保てる。
例えば久しぶりにバイクに乗るときなど、エンジンは冷えている状態になります。そこからバイクに乗り、しばらく走行するとエンジンは暖まった状態になりますよね?
その時ピストンもシリンダーも金属なので、必ず熱膨張があります。なので、暖まった時に最適なクリアランスになるように設計する必要があるので冷間時ではクリアランスが大きくなってしまいます。
これはピストンとシリンダーの材質の違いもあってピストンはアルミ、シリンダーライナーは鋳鉄で作られている事が多いので膨張率が変わってくるのが原因となります。(アルミは鋳鉄の訳二倍程膨張しやすい)
そういった面から、実際はクリアランスが常に一定というのは非常に難しいということになります。
⑥高圧縮でもノッキングを起こしにくい放熱性があり、熱溜まりの箇所がない
燃焼室内が高温になりすぎるとノッキングという異常燃焼が起こる可能性が高くなります。それを防ぐにはピストン頭部を含んだ燃焼室の放熱性というのが大切になってきます。
ただし、放熱性かあまりにも高過ぎるとそれはそれで、熱エネルギーを捨てているような状態になってしまいます。なので、適度な放熱性というのが大切になってきます。
熱溜まりというのは、ピストンの質量や形状などの何かしらの理由によって熱を溜めてしまう箇所を言います。
熱溜まりがあるとそこが予期せぬヒートスポットとなってしまい不均一な熱膨張により異常変形を起こす事が考えられるので、熱溜まりが無いような設計をする必要があります。
⑦ノッキングが起きたとしてもスグには融解しない
めちゃくちゃ軽くて放熱性もあって、非常に丈夫なピストンがあったとしても、ノッキングを起こすとすぐに融けて穴が開くようなピストンでは役に立たないですよね?
なので、仮にノッキングが起こったとしても耐えられるだけの耐熱性と強度、放熱性が必要とされます。
⑧オイル上がりをしない
ピストンとシリンダーライナーは油膜によってクリアランスが保たれているのは前述しましたが、そのオイルが燃焼室まで入ってくるのは問題です。いわゆるオイル上がりってやつですね。
オイル上がりを起こすオイルはどんどん燃焼して減っていきます。さらに、多く進入してくるとマフラーから白煙があがったりピストンリングにカーボンが溜まってリングを固着させたりといった怖い現象が起きます。
なのでピストンリングでしっかりとオイルを掻き落とす必要があるのです。
⑨ピストンリングが滑らかに動き、ゆっくり回転すること。溝にカーボンが溜まらないこと
ピストンを組んだ事がある人ならわかると思いますが、ピストンリングって案外ガタガタしてますよね?これで良いのだろうか?みたいに感じるかもしれません。
しかし、実際はリング溝とピストンにある遊びによってピストンリングがゆっくり動き、混合気のシール性をコントロールしています。
⑩ピストンピンから受ける曲げと弾性変形がない
ピストンピンは燃焼の圧力を支えるとても重要な部品です。繰り返し起きる、強力な燃焼圧をあの細いピンが支えているわけですから、非常に強い耐久性が求められます。
実際にはつぶれたり曲がったりしますが、理想は一切の変形が無い事です。
⑪長時間の使用でもピストンが変形しない
簡単に言ってしまうとどれだけ使用しても一切摩耗しないということです。そんなことはないですよね?長年使用し続ければ当然各部が摩耗して、不具合が発生してきます。
なので、そういった事が無いピストンが理想的と言う事です。
これらがピストンの理想的な条件になります。
なかなか実現は難しそうな条件もありましたが、もしこれらを全てクリアした究極のピストンみたいなものが出来たらどうなるんだろう?とか想像するのも面白いかもしれませんね。
次回に続きます。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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